近年,左手系媒質と呼ばれる誘電率および透磁率がともに負である媒質のマイクロ波デバイスへの応用の研究が進められている. フェライトには直流磁界を印加することで実効透磁率(μeff)が負となる帯域が存在する.実効誘電率が負となるしゃ断導波管にフェライト基板を周期的に装荷することで,左手系(LH)フェライト導波管(LHFWG)が構成できる. またLHFWGの中央でフェライト基板を分割し,左右を反平行に磁化することで表面波の周回方向をそれぞれ反転させ横断面の電磁界分布を対称にする構造を提案した. 本研究では金属導波管に比べて小型・軽量の擬似導波管として知られている誘電体基板集積導波路(SIW)を遮断導波管に用いて小型化をはかる構造を提案し,その特性を数値解析によって明らかにしている.
構造
図1に示すような長さlfのフェライト装荷部を長さld /2 で挟んだ長さ l (= lf + ld),高さh, 幅wの単位セルを接続した周期構造を考える.
フェライト基板の中央に空隙gffを設け±z方向に直流磁界H0をそれぞれ反平行に印加する.
数値計算
単位セルについて電磁界シミュレータHFSS を用いてZ行列を求め,これを変換して近似的に単位セルのF行列を求め, これに周期条件を適用し,
その解である分散曲線を図2に示す.
近年,マイクロ波加熱を材料合成や化学反応へ応用する研究が進められている. マイクロ波の伝送路として知られるポスト壁導波路とマイクロ流路を組み合わせた構造を持つマイクロ波加熱チップの提案と開発を行っている.
ポスト壁導波路を用いた24GHz帯マイクロ波加熱チップの構造を図1に示している. 接地導体で挟まれた材料に,周期的に金属柱を配置してポスト壁導波路が構成されている. ポスト壁導波路の柱と柱の隙間を利用して,外部から導波路内部へ流路が設けられている. 金属柱の間隔を適切に選べば,マイクロ波エネルギーは外部へ放射せずに導波路内部を伝搬する. これは,流路に溶媒を流し込み,導波路内でマイクロ波を照射し,被加熱物をそのまま連続的に取り出すことが可能な構造である.
図2は,24GHzを動作帯域として設計した,透明なポスト壁導波路によるチップサイズマイクロ波照射構造である. 透明材料として厚さ3 mmのアクリル板を想定し,これに断面1mm×1mmの流路を設けている. さらに,接地導体に透明電極(ITO膜)を用いることで照射構造内部を観察できるようになっている. 周波数24.15GHzで電力1.2Wのマイクロ波を入力し,水の温度-時間変化を測定したところ,28℃から78℃まで上昇することを確かめている.
メカトロニクスや光学などで用いられるマイクロ部品の製作が,様々な微細加工技術により試みられている. シンクロトロン放射光(X線)を利用したテフロン(PTFE)の微細加工を行い,その表面に金属膜を施した形状のミリ波デバイスの開発を行っている. テフロンは,優れた電気的特性,熱的特性の材料であるが,微細加工が困難な材料としても知られている. しかし近年,テフロンに放射光を照射することで,マイクロ構造体を製作する技術が生み出されている.
図1は,放射光でテフロン材料のエッチング加工を行う様子を示している. テフロンシート上に作製したいパターンが写されたマスクを置いて放射光を照射すると,放射光の当たった箇所のテフロン分子が分解して, 図1下段の写真のようなテフロンパターンが得られる. 用いるマスクの精度と材料厚にも依存するが、サブミクロンオーダーの加工精度を得ることが可能である. テフロンのようなフッ素系樹脂以外にもPMMAなどのアクリル樹脂を加工することもできる.
このようなテフロン微細加工の応用例として,図2に示すような,高周波デバイス(ミリ波帯)の開発がある. 図2はテフロンの表面に金を蒸着・電解めっきしたもので,ミリ波導波管フィルタ回路として機能する. 通常の機械加工では実現の難しい微細スリットパターンが含まれている. なお,金属膜を施さずにテフロン構造物のみを用いる応用例として,流体デバイスなども作製可能で, 数十ミクロン程度の細孔を利用した多機能流体フィルタがある.